「そうなるんじゃないかな。二十歳になっても、アイドル続けてるような気がするよ」
 しばらく考えてから、俺はそう答えていた。
 特に根拠なんてないが、何となくそんな気がした。
「だったらいいですね」
 と、春香も笑う。
「最近、アイドルという仕事の面白さが、わかってきたように思うんです。だから、これからも続けていけたらいいなって」
「俺も、アイドルとして活躍する春香を、これからもずっと見ていたいな」
 と言ってから、我ながらクサい台詞を口にしてしまったなと反省しつつ、横目で春香を窺うと、何だか妙に嬉しそうだ。
「えへへへっ。プロデューサーさんがそう言ってくれるなら、私がんばっちゃいますよ!」
「がんばるのはいいけど。張り切りすぎた挙げ句、勢い余って転んでしまう――なんてことがないようにしてくれよな」
「むむぅ……。気を付けます」
「しかし、現役アイドルとして春香が成人式に出席するとなると、ちょっとした騒ぎになりそうだな」
「……そうかもしれないですね」
「もしかしたら、新成人代表として挨拶してくれって頼まれるかも」
「ええっ!? それ、責任重大じゃないですか」
「で、テレビカメラとか来て、ニュースやワイドショーで映像が流れたりとかするかも」
 そう言いながら助手席の春香を見やると、何だか難しい顔して腕組みしている。
「…………」
「春香?」
「それまでには、何とかドジを治したいですね」
「ま、そんなにマジにならなくてもいいんじゃないか? まだ何年も先の話だし」
 と答えて、俺は赤信号で車を停める。サイドブレーキを引いて、軽く伸びをする。
 何気なく横を向くと、春香と目が合った。
「プロデューサーさん……」
「ん?」
「私が無事に成人式を迎えられるように、しっかりサポートしてくださいね」
 あまりにも真剣な表情でそんなことを言うので、俺は思わず吹きだしてしまった。
「わ、笑うことないじゃないですかぁ……」
「ごめんごめん。あまりに真剣な顔だったから」
「それ、どういう意味ですか?」
「別に他意はないよ。やっぱり春香はかわいいなってだけで」
「かわいいだなんて、そんなー♪」

 プップー!

 後続の車からクラクションが鳴らされた。
 いつの間にか信号は青に変わっている。
 俺はサイドブレーキを解除し、アクセルを軽く踏んで、車を発進させた。
 唸りを上げるエンジンに負けないように、春香が声を張り上げた。
「プロデューサーさん!」
「何だ?」
「これからも、よろしくお願いしますね。私、がんばりますから!」
「……おう。こっちこそ、よろしくな」
 春香は今日も元気そうだ。
 良い一年になるような、そんな予感がするぞ。


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初出:【食べて下さい】天海春香 19個目【手作りの…エヘ】


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