「――というわけで、今後しばらくの間、春香と千早はソロ活動を行う」
 と、プロデューサーさんに言われても、私はいまいちピンと来なかった。
 今のプロデューサーさんは千早ちゃんのソロ活動を担当し、私のソロ活動には別のプロデューサーが付くということだけど、どんな人なんだろう? 優しい人だといいな。
 という程度にしか思わなかった。
「で、春香の担当プロデューサーなんだが……、遅いな」
 腕時計を睨みながらプロデューサーさんがぼやくのと、会議室の扉がノックされるのとは、ほぼ同時だった。
 ガチャリとドアが開き、人が入ってくる。
「失礼します! 遅れてしまい申し訳ありません」
 私は、その声に聞き覚えがあった。
 背後を振り返った私は、予想したとおりの人物を見つけて、思わず声を漏らしていた。
「プロデューサーさん……」
 そう。プロデューサーさんだった。
 と言っても、何が何だかだよね。
 実は、千早ちゃんとのユニットを組む前に、私はソロでデビューをしていた。ところが、デビュー後に体調を崩してしまい、わずか数ヶ月で活動停止となってしまっていたのだ。
 その後、千早ちゃんとユニットを組んで再デビューとなったのだけど、それっきり最初にソロデビューしたときのプロデューサーさんとは離ればなれになってしまっていた。その離ればなれになっていたプロデューサーさんというのが、つい今し方会議室に駆け込んできたプロデューサーさんというわけだ。
「春香! 元気だったか?」
 この明るい声。何だか懐かしいな。
「プロデューサーさんこそ、お変わりありませんか?」
「おかげさんでな。でも、春香の活躍を見るたびに、申し訳なくってなぁ。あのとき、俺がちゃんと春香の体調管理に気を付けていれば、もっと早くアイドルとして芽が出たのにって。そう思うと……ううっ」
「ちょ、ちょっと、泣かないでくださいよ」
「すまん……。春香に再会できて、嬉しくて……」
 いきなり感極まって泣き出したプロデューサーさんを横目で見ながら、千早ちゃんがそっと耳打ちしてくる。
「ねぇ、春香。この方と知り合いなの?」
「うん。前に、ソロデビューしたときの担当プロデューサーさんなんだ」
「そうなんだ」
「春香」
 プロデューサーさん――えっと、千早ちゃんの担当プロデューサーさんに呼ばれて、私は姿勢を正した。
「はい」
「ま、大凡の事情はわかったと思うけど。そういうわけだから、よろしくな」
「はい。リベンジのチャンスだと思って、頑張ります」
「そうだな。その意気で頼む。頃合いを見計らって、また千早と春香にはデュオでの活動に戻ってもらうつもりだ。だから、ソロ活動の間に、色んな経験を積んでおいてくれ。――って、そこの泣き上戸も、ちゃんと聞いてるか?」
「聞いてますよ、先輩」
「ならいいけどな。春香のこと、しっかり頼むぞ」
「はい。今度はしくじりません」
 そう言うと、プロデューサーさんは――えっと、私の担当プロデューサーさんが、そっと手を差し伸べてきた。
「こうして、また一緒に活動できるのも、何かの縁だと思う。力を合わせて頑張ろうな、春香」
 私は差し出された手を握りかえして、頷いた。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 私とプロデューサーさんの第二章は、こうして幕を開けたのだった。


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