「何だか、今日はやけに和服の人が多いですね」
 某CDショップでのサイン会を終えて事務所へ帰る車の中で、春香がポツリと呟いた。
 確かに振り袖姿の女性が目に付く。
「まぁ、成人の日だからな。成人式帰りの人たちじゃないかな」
「あ、そっか。成人の日でしたね、今日って」
 そう言いながら、春香は窓の外を眺める。
 春香の視線の先では、振り袖姿の女性数人が談笑しながら信号待ちをしていた。
「振り袖、着てみたいのか?」
 そう訊いてみると、春香は少し考え込むような素振りを見せた。
「う〜ん……。やっぱり、着てみたいですね」
「それじゃあ、成人式は華やかな振り袖を着て出席か」
「それがいいなって思います。晴れ着を着る機会なんて、そうそうあるもんじゃないですし」
「確かにな」
 俺がそう相槌を打つと、春香は再び窓の外へ目をやった。
「私、いつまでアイドルを続けられるんでしょうか?」
「え……?」
「私、アイドルとして成人式を迎えることになると思いますか?」
 正直言って、それは答えに困る問いだった。
 春香が成人式を迎えるのは、四年後。その時点で、春香がアイドルを続けているかどうかは、春香の意思次第だ。ウチの社長は、アイドルの意思を尊重する。春香が辞めたいと言えば無理強いはしないはずだし、続けると言えば続けさせるだろう。ただし、その場合、俺が春香のプロデュースを担当しているとは限らないが……。

1>「どうだろうな……」
2>「アイドル続けてるような気がする」
3>「アイドル辞めてるかもしれない」


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初出:【食べて下さい】天海春香 19個目【手作りの…エヘ】


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